もし又、万一、二人が国のためになると思うたならば玄洋社が総出で板垣に加勢してやろう。ナアニ二人が行けば大丈夫。口先ばっかりの土佐ッポオをタタキ潰して帰って来る位、何でもないじゃろう」
 といったような極めて荒っぽい決議で、旅費を工面して二人を旅立たせた……というのであるが何が扨《さて》、無双の無頓着主義の頭山満と人を殺すことを屁《へ》とも思わぬ無敵の乱暴者、奈良原到という、代表的な玄洋社式がつながって旅行するのだから、途中は弥次喜多どころでない。天魔鬼神も倒退《たいとう》三千里に及ぶ奇談を到る処に捲起して行ったらしい。
 当時の事を尋ねても頭山満翁も奈良原翁もただ苦笑するのみであまり多くを語らなかったが、それでも辛うじて洩れ聞いた、差支えない部類に属するらしい話だけでも、ナカナカ凡俗の想像を超越しているのが多い。
 二人とも或る意味での無学文盲で、日本の地理なぞ無論、知らない。四国がドッチの方角に在るかハッキリ知らないまんまに、それでも人に頭を下げて尋ねる事が二人とも嫌いなまんまに不思議と四国に渡って来たような事だったので、途中で無茶苦茶に道に迷ったのは当然の結果であった。
「オイオイ
前へ 次へ
全180ページ中77ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング