でも余計にブラ下げるのが競争のようになって、あらん限り強情を張ったものであった。三人とも腰から下は血のズボンを穿《は》いたようになっているのを頭山は珍らしそうにキョロキョロ見まわしている。進藤も石が一つ殖える度毎《ごと》に嬉しそうに眼を細くしてニコニコして見せるので、意地にも顔を歪める訳に行かん。どうかした拍子に進藤に向って『コラッ。貴様の面《つら》が歪んどるぞ』と冷やかしてやると進藤の奴、天井を仰いで『アハアハアハアハ』と高笑いしおったが、後から考えるとソウいう自分《わし》の方が弱かったのかも知れんて、ハハハ。とにかく頭山は勿論、進藤という奴もドレ位強い奴かわからんと思うた。役人どもも呆れておったらしい。
それから今一つ感心な事がある。
獄舎《ごくや》にいる間には副食物に時々|魚類《さかな》が付く。……というても飯の上に鰯の煮たのが並んでいる位の事じゃったが、そのたんびに頭山は箸《はし》の先で上の方の飯を、その鰯と一所《いっしょ》に払い除《の》けて、鼻に押当てて嗅いでみる。そうしてイヨイヨ腥《なまぐさ》くないとこまで来てから喰う。尋常に喰うても足らぬ処へ、平生大飯|喰《くら》いの
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