強い、頼もしい男はなかった。熊本県の壮士と玄洋社の壮士とが博多東中洲の青柳《あおやぎ》の二階で懇親会を開いた時に、熊本の壮士の首領で某《なにがし》という名高い強い男が、頭山の前に腰を卸して無理酒を強《し》いようとした。頭山は一滴もイカンので黙って頭を左右に振るばかりであったが、そこを附け込んだ首領の某《なにがし》がなおも、無理に杯を押付ける。双方の壮士が互い違いに坐っているので互いに肩臂《かたひじ》を張って睨み合ったまま、誰も腰を上げ得ずにいる時に、進藤がツカツカと立上って、その首領某の襟首を背後から引掴むと、杯盤の並んだ上を一気に梯子段の処まで引摺って来て、向う向きに突き落した。そのあとを見返りもせずにニコニコと笑いながら引返して来て『サア皆。飲み直そう』と云うた時には大分青くなっておった奴が居たようであったが、その進藤と、頭山満と自分《わし》と三人は並んで県庁の裏の獄舎《ごくや》で木馬責めにかけられた。背中の三角になった木馬に跨《またが》らせられて腰に荒縄を結び、その荒縄に一つ宛《ずつ》、漬物石を結び付けてダンダン数を殖《ふ》やすのであったが、頭山も進藤も実に強かった。石の数を一つ
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