りに固く守って、托鉢坊主になったり、謡曲の師匠になったり又は三文文士になったりして文字通りに路頭に迷いそうなので、親仁も呆れて、感心な奴だと賞めながら月給を支給している。
「俺の伜は実に呆れた奴だ。小説を出版してくれと云うから読んでやると、最初の一二行読むうちに、何の事やらわからなくなる。屁《へ》のような事ばかりを一生懸命に書き立てているのでウンザリしてしまう。たまたま俺にわかりそうな処を読んでみるとツイこの間、ヒドク叱り付けてやった俺の云い草をチャント記憶《おぼえ》ていやがって、そっくりその通りを小説の中味に採用していやがるのには呆れ返った。娘を売って喰う親は居るが、親を売って喰う伜が居るもんじゃない。一生涯あの伜だけは叱らない事にきめた」
因《ちなみ》に、その伜の筆名《ペンネーム》は夢野久作という。親父の法螺丸が山のように借銭を残して死んでやろうと思っているとは夢にも知らずに、九州の香椎《かしい》の山奥で、妻子五人を抱えて天然を楽しんでいる。焼野の雉子《きぎす》、夜の鶴。この愚息なぞも法螺丸にとっては、頭山満と肩を並べる程度の苦手かも知れない。
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奈良原到
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