云いおった。ところがその次に会うた時は『頭山さん』とさん付けにして一段格を落しおったから、感心して見ていると、三度目に会うた時は頭山君と云うて又一段調子を下げおった。今に俺を呼び棄ての小僧扱いにしおるじゃろうと思うて楽しみにして待っとる」
これは杉山法螺丸の一番痛いところに軽く触れた言葉で、実に評し得て妙と云うよりほかはない。
又或る時、杉山法螺丸が何かのお礼の意味か何かで、頭山満に千円以上もする銘刀を一口《ひとふり》贈った事がある。無論、飛切り上等の拵附《こしらえつ》きで、刀剣道楽の大立物其日庵主が大自慢のシロモノであったが、その後《のち》、法螺丸が頭山満を訪問して、
「どうだ。あの刀は気に入ったか」
と云うと頭山満ニッコリして曰く、
「うむ。あれはええ刀じゃった。質屋に持って行ったら三十円貸したぞ。又あったら持って来てくれい」
其日庵主もこれには少々驚いたらしい。帰って来て曰く、
「モウ頭山に物は遣らぬ。あいつの伜に遣った方がええ」
法螺丸には男の児が一人しか居ない。これが親仁《おやじ》とは大違いの不肖の子で、
「俺みたいな人間になる事はならぬぞ」
という訓戒を文字通
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