うのを楽しみにイクラでも不始末を仕出かす事になる。結局、そんな世話を続行するのは日本亡国の原因を作るようなものだとつくづくこの頃思い当ったせいでもあるんだがね」

 こうして縷述《るじゅつ》して来ると彼の法螺の底力は殆んど底止《ていし》するところを知らない。
「自ら王将を以て任ずる奴は天下に掃き棄てる程居る。金将たり、銀将たり、飛車角、桂香を以て自ら任じつつ飯喰い種にして行く者が滔々として皆|然《しか》りであるが、その飯喰い種を皆棄てて、将棋盤の外にいて将棋を指している奴は、なかなか居るものでない。だから世間の事が行き詰まるんだ。あぶなくて見ていられなくなるんだ」
 という、頭山満以上の超凡超聖的彼自身の自負的心境を、そっくりそのまま認めてやらなければならなくなって来るのであるが、彼とても人間である。時と場合によっては平凡人以下の血もあり涙もあるばかりでない。彼の手に合わない人物も多少は出現して来るのだから面白い。
 頭山満曰く、
「杉山みたような頭の人間が又と二人居るものでない。彼奴《きゃつ》は玄洋社と別行動を執《と》って来た人間じゃが、この間久し振りに合うた時には俺の事を頭山先生と
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