て来る。地獄に俺みたいな仏様が居るか居ないか知らないが、居るとしたら読むお経は一行も無いね。空気が在るから仕方なしに生きている。生きているから腹が減るのは止むを得ないという連中ばかりが、元来持って行き処のない尻を俺の処へ持って来るんだ。まあまあ待ったり、君等は自分の用事さえ済めば、アトは俺が死んでも構わない了簡《りょうけん》だろう。自分の尻を他人に拭いてもらう奴を小児《こども》といい、自分の垂れ物を自分で片付ける奴を大人という。君は元来大人なのか小供なのか。前をまくって見せろ……とか何とか云って追っ払ってしまうが、その手の利かない奴は、仕方がないから前に倍した手酷い手段で押し片付けて行く。明日の事は考えない。きょうさえ片付けばいいという方針だから、何を持って来たって驚かないんだ。
 尤《もっと》もこの頃は年を老《と》ったせいか、人に会うのと、字を書くのが大儀になった。心臓にコタエて息が切れたり脈が結滞《けったい》したりするから、面会と字書きを御免蒙っている。一方から云うと、そんな自分の尻を持て余しているような連中の尻をイクラ拭いてやったって相手は当り前だと心得ている。俺に尻を拭いてもら
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