サア今日こそは大変な日だぞ。昨日《きのう》の尻は勿論の事、一昨日《おととい》、再昨日《さきおととい》……昨年、一昨年の尻が一時に固まって来る日だぞと覚悟して待っているとサア来るわ来るわ。あらん限りのヨタや出鱈目《でたらめ》を並べたり、恩人を裏切ったり、正直者を欺《だま》したりした方法でもって押し送って来た過去の罪業が、一時に鬨《とき》の声をあげて押しかけて来る。貴様が教えた通りに喋《しゃべ》ったら議会の空気が悪化して解散になりそうになった。万一解散になったら俺は一文も運動費が無いとあれほど云っておいたではないか、という代議士や、貴方のお世話で娘を嫁に遣ったら相手は梅毒の第三期だったと大声をあげて泣く母親や、先生から貰った小切手は銀行で支払いませんというのや、貴方の紹介状に限って大臣は会わないと云います。其日庵の紹介には懲《こ》り懲《ご》りだという話です。お蔭で会社が潰れて二百名の職工が路頭に迷いますというのや、貴方の乾分の弁護士の御蔭で三年の懲役が五年になりました。そのお礼を申上げに来ましたという紋々《もんもん》倶利迦羅《くりから》なんどが、眼の色を変えて三等急行の改札口みたいに押かけ
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