てるのと債券を買うのと同じ事に心得ているんだから遣り切れない。そこで就職出来ないとなると世の中が悪いと云って俺の処へ訴えに来る。俺が世の中じゃなし、知った限りではないんだが、そんな連中もたしかに世の中の一部分で、所謂大衆に相違ないんだから仕方なしに俺の責任みたような顔をして文句を聞いてやるんだ。高利貸は又高利貸で、勝手に俺の印形《いんぎょう》を信用して、手前一存の条件を附けて貸しやがった連中だ。中には一面識もない奴の借銭も混っているんだが、俺が議会に命じて作らせた法律というものを楯に取って来るから仕方ない。日歩《ひぶ》五銭ぐらいを呉れるつもりで会ってやるんだ。その次が大臣病患者、政権利権の脾胃虚病《ひいきょや》み、人格屋の私生児の後始末、名家名門の次男三男の女出入りの尻拭い、ボテレン芸者の身上相談、鼻垂れ小僧と寝小便娘の橋渡しに到るまで、アラユル社会の難物ばかりが、ハキダメみたいに杉山博士の診察、投薬を仰ぎに来る。しかもどの患者もどの患者も方々の名医の処を持ってまわって、コジラかした上にもコジラかした救うべからざる鼻ポンや骨がらみばかりがウヨウヨたかって来るんだから敵《かな》わない。
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