所謂オッチョコチョイの蛆虫《うじむし》野郎だ。この修養が出来れば地蔵様でも閻魔《えんま》大王でも手玉に取れるんだ。人生はそう深く考えるもんじゃない。あんまり深く考えると、人生の行き止まりは三原山と華厳の滝以外になくなるんだ。三十歳まで大学に通ってベースボールをやる必要なんか無論ないよ」
「其日庵という俺の雅号の由来を知っているかい。これは俺の処世の秘訣なんだから、少々惜しいが説明して聞かせる。論語の中で会参は日に三度《みたび》己《おのれ》をかえりみると云った。基督《キリスト》は一日の苦労は一日にて足れりと云ったが、俺は耶蘇《やそ》教ではないが其日暮《そのひぐら》しが一番性に合っているようだね。……まず……朝起きると匆々から飯を喰う隙もないくらいジャンジャン訪問客が遣って来る。一番多いのが就職口と高利貸で、親の脛《すね》を噛じって野球をやったり、女給の尻を嗅ぎまわったり、豆腐屋の喇叭《ラッパ》みたいな歌を唄ったりした功労によって卒業免状という奴を一枚貰うと、そいつをオデコの中央に貼り付けて就職の権利でも授かった気で諸官庁会社を押しまわる。親爺《おやじ》も亦《また》親爺で、伜《せがれ》を育
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