話してみい」
法螺丸「心得たり」
というので、昨日《きのう》聞いたばかりのホヤホヤのサンジカリズムの話を、その雑誌丸出しの内容に輪をかけたケレンやヨタ交りに、面白おかしく講釈すること約二時間、流石《さすが》の後藤新平氏も言句も出ずに傾聴すると「シンペイ」するなとも何とも云わずに、大急ぎで帰って行った。アトに昨日雑誌を読んで聞かせた書生さんが手に汗を握ったままオロオロしているのに気が付いた法螺丸、ハッとするにはしたらしいが、何喰わぬ顔で、
「面白いだろう。後藤新平というのは存外正直もんじゃよ」
そもそも杉山法螺丸が、どこからこれ程の神通力を得て来たか。生馬《いきうま》の眼を抜き、生猿《いきざる》の皮を剥《は》ぎ、生きたライオンの歯を抜く底《てい》の神変不可思議の術を如何なる修養によって会得して来たか。
請う先ず彼の青年に説くところを聞け。
「竹片《たけぎれ》で水をタタクと泡が出る。その泡が水の表面をフワリフワリと回転して、無常の風に会って又もとの水と空気にフッと立ち帰るまでのお慰みが所謂人生という奴だ。それ以上に深く考える奴がすなわち精神病者か、白痴で、そこまで考え付かない奴が
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