知っとる者《もん》なら私一人かと思っておったが、アンタもいくらか知っとるなあ」
「失敬な事を云うな仁三郎。林駒生はこれでも総督府の技師だ。事、水産に関する限り、知らんという事は只の一つも無いのが職分だぞ。そのために中佐相当官の待遇を……」
「ふむ。わかったわかった。それなら聴くがアンタは鯨の新婚旅行をば、見なさった事があるかいな」
「ナニ。鯨の新婚旅行……」
芸妓《げいしゃ》連中が一斉に爆笑した。八代、武谷両聖人が今更のように眼をパチクリして湊屋の顔を凝視しているところへ、鼾《いびき》を掻き止めた令兄杉山茂丸氏がムクムクと起上って、赤い眼をコスリコスリ、
「ハハア。新婚旅行……誰が……」
と云ったので今一度、爆笑が起った。
林水産技師は憮然として投出した。
「……そんなものは……見ん……元来鯨は……」
「それ見なさい。知るまいが。イヤ。それは大椿事《おおごと》ですばい。鯨の新婚旅行チュータラ……」
と仁三郎が間髪を容れず引取った。
「イヤ。トテモ大椿事《おおごと》ですばい。アンタ方は知りなさるまいが、鯨はアレで魚じゃない。獣類《けだもの》ですばい」
「ウム。それはソノ鯨は元来哺
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