その鰤の半身《かたみ》をクフンクフンと嗅いでみた。
「親爺《とっ》さん、悪い事は云わん。この鰤は腐っとるばい。こげな品物《もん》ば下げておくと、喰うたお客の頭の毛が抜けるばい」
「要らん世話たい。腐っておろうがおるまいがこっちの品物じゃろうが、銭《ぜに》を払え銭を……」
「ナニ。貴様もこの鰤が喰いたいか」
帰って来た相棒が割込んで来たのを仁三郎が慌てて押止めた。
「まあまあそう因業な事をば云いなさんな。折角の喧嘩が又ブリ返すたい」
「その禿頭《はげあたま》をタタキ割るぞ畜生」
「止めとけ止めとけ。タタキ割っても何にもならん。腐ったブリが忘れガタミじゃ詰らん」
この洒落がわかったらしい。親爺が、眼をグルグルさしたまま黙って引込んだ。
二人は連立って店を出た。
「ああ、久しブリで美味《うま》かった」
「俺もチイッと飲み足らんと思うておったれあ、今の喧嘩でポオッとして来た。二合|分《ぶり》ぐらいあったぞ、箒売のアタマが……オット今の丼をば忘れて来た」
「馬鹿な。置いとけ置いとけ。ショウガなかろう」
飄逸、洒脱、繊塵《せんじん》を止めず、風去って山河秋色深し。更に挙《こ》す。看よ。
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