ば返せ。返されんチ云うなら二人とも警察まで来い。サア来い」
「まあ待ちなさい。チャンと話は附ける。ブリな事をば云いなさんな」
「又仁輪加を云う。何がブリかい。その仁輪加を警察へ来て云うて見い。サア来い」
湊屋の相棒は市場名物の短気者であった。
「ええ。面倒な。鰤さえ返せば文句はないか」
と云ううちに、店の天井からブラ下っていた鰤の半身《かたみ》を引卸して、片手ナグリに箒売を土間へタタキ倒した。
「持って失《う》せれ外道サレエ。市場《おおはま》の人間を見損のうたか」
箒屋は剣幕に呑まれたらしい。鰤の半身《かたみ》も、持って来た丼もそのままに起上《たちあが》って、棕梠箒の荷を担いで逃げて行く奴を、追い縋った相棒が引ずり倒してポカポカと殴り付けた。商売物の箒が泥ダラケになってしまった。
その間に湊屋は黙って鰤の半身《かたみ》を拾ってモトの天井の釘へブラ下げるのを、居酒屋の因業おやじ[#「おやじ」に傍点]が奥から見ていたらしい。イキナリ飛出して来て仁三郎の前に立ちはだかった。
「その鰤は商売《あきない》物ばい。黙って手をかけたからには、そのままには受取れん」
仁三郎は返事をしないまま
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