なって腕を捲くった箒売が、怒髪天を衝《つ》いた。
「済まんで済むか。切肉《きりみ》を戻せッ」
仁三郎は柔道の免許取りであっただけにチットも驚かなかった。
「イヤ、悪かった。猫に干鰯《ほしか》でツイ卑しい根性出いたのが悪かった」
「この外道等……訳のわからん文句を云うな。ヌスット……」
「イヤ。悪かった悪かった。冗談云うて悪かった。博多の人間《もん》なら仁輪加で笑うて片付くが、他国《たび》の人なら腹の立つのも無理はない。悪かった悪かった。ウチまで来なさい。返済《まどう》てやるけに。ナア。この通り謝罪《ことわり》云うけに……」
元来が温厚な仁三郎は、見ず知らずの箒売の前に鉢巻を取って平あやまりに謝罪《あやま》った。
「貴様の家《うち》まで行く用はない。金が欲しさに云いよるのじゃないぞ。今喰うた切肉《きりみ》を元の通りにして返せて云いよるとぞ」
押が強くて執念深いのが箒売の特色である。その中でも特別|誂《あつら》えの奴と見えて、相手は二人と見ても怯《ひる》まなかった。因縁を附けてイタブリにかかる気配であった。
「他国《たび》の人間《もん》と思って軽蔑するか。一人と思うて侮るか。サア鰤を
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