が片付かぬ中《うち》に二人は、代る代る手を出して背後《うしろ》の小丼の中味を抓《つま》んだ。
「ハハン。この家のおっさん[#「おっさん」に傍点]のガッチリして御座るのには呆れた。両方儲かる話が、わからんチウタラ打出の小槌でたたいても銭《ぜぜ》の出んアタマや……ハハン。買うて下はらぬ位なら他の店へ行くわい」
とか何とか棄科白《すてぜりふ》で、大手を振って棕梠箒売が引返して来た時には、小丼の中にはモウ濁った醤油と、生姜の粉が、底の方に淀んでいるだけであった。
箒売は土間の真中に突立ったまま唖然となって、上機嫌の二人を眺めておった……が、やがてガラリと血相を変えると、知らん顔をして指を舐《な》めている仁三郎に喰って蒐《かか》った。
「……アンタ等は……ダ……誰に断って、この肴《さかな》をば、抓《つま》みなさったカイナ」
湊屋がゲラゲラ笑い出した。
「アハハ、途方もない美味《うま》か鰤じゃったなあ。ホーキに御馳走様じゃった。まず一杯差そうと云いたいところじゃが、赤桝《ます》の中はこの通り、逆様《さかさま》にしても一しずくも落ちて来んスッカラカン……アハハハハ。スマンスマン……」
真青に
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