羽《かっぱ》包みの荷を卸《おろ》した一人の棕梠箒売《しゅろぼうきうり》が在る。
 元来この棕梠箒売という人種は、日本中、どこへ行っても他国《たび》の者が多い。従ってどことなく言葉癖が違っている上に、根性のヒネクレた人間が珍らしくない。仁輪加なんか無論わかりそうにないノッソリした奴が多いのであるが、その中でも代表的と見える色の黒い、逞ましそうな奴が、骰子《さい》の目に切った生鰤《ぶり》の脂肉《あぶらにく》の生姜《しょうが》醤油に漬けた奴を、山盛にした小丼を大切そうに片手に持って、
「ええ。御免なはれ」
 と這入って来た。唖然として見惚《みと》れている仁三郎とその相棒を尻目にかけ、件《くだん》の小丼を仁三郎の背後のバンコに置き、颯爽《さっそう》として奥へ這入り、店の親爺《おやじ》を捉まえて商売物の棕梠箒で棕梠ハタキを押付けて酒代にすべく談判を始めた。ところがその居酒屋の親爺なる人物が又、人気の荒い大浜界隈でも名打ての因業《いんごう》おやじ[#「おやじ」に傍点]でナカナカそんな甘手《あまて》の元手喰式《さやくい》慣用手段《いんちき》に乗るおやじ[#「おやじ」に傍点]でない。ヤッサ、モッサと話
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