は……」
「フウン。そんなに執拗い幽霊か」
「執拗いにも何も話にならん。トテモ安閑として内地には居《お》られん」
「一体何の幽霊かいね」
「缶詰の幽霊たい。ほかの幽霊と違うて缶詰の幽霊じゃけに、いつまでも腐らん。その執拗い事というものは……呆れた……」
愚直な林氏は茲《ここ》に於て怫然《ふつぜん》色を作《な》した。
「一体貴様は俺をヒヤカシに来たのか。それとも助けてもらいに来たのか」
「正真正銘、真剣に助けてもらいに来たのじゃないか。これ見い。この寒空に浴衣のお尻がバルチック艦隊……睾丸のロゼスト・ウイスキー閣下が、白旗の蔭で一縮みになっとる。どうかして浦塩更紗《うらじおさらさ》のドックに入れてもらおうと思うて……」
「馬鹿……大概にしろ。この忙しい事務所に来て、仁輪加を初める奴があるか……」
しかし篠崎仁三郎はどこへ行ってもこの調子であった。魚市場の若い連中が何かの原因でストライキを起して、幹部連中が持てあましている場面でも湊屋仁三郎が出て行くと一ペンに大笑いになって片付いた。
「貴様は○○のような奴じゃ。撫でれば撫でる程、イキリ立って来る。見っともない」
結局、彼にとっては
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