ろ》にして博多や下関へドンドン荷を廻わすようになりましたが、その資本《もとで》というたなら、大惣の生胆《いきぎも》一つで御座いました。人間、酒と女さえ止めれば、誰でも成功するものと見えますナア。ハハハハ……」
湊屋仁三郎の逸話は、この程度のものならまだまだ無限に在る。仁三郎の一生涯を通ずる日常茶飯が皆、是々的《このて》で、一言一行、一挙手一投足、悉《ことごと》く人間味に徹底し、世間味を突抜けている。哲学に迷い、イデオロギイに中毒して、神経衰弱を生命《いのち》の綱にしている現代の青年が、百年考えても実践出来ない人生の千山万岳をサッサと踏破り、飄々乎《ひょうひょうこ》として徹底して行くのだから手が附けられない。もしそれ百尺|竿頭《かんとう》、百歩を進めた超凡越聖《ちょうぼんおっしょう》、絶学《ぜつがく》無造作裡《むぞうさり》に、上《かみ》は神仏の頤《あご》を蹴放《けはな》し、下《しも》は聖賢の鼻毛を数えるに到っては天魔、鬼神も跣足《はだし》で逃げ出し、軒の鬼瓦も腹を抱えて転がり落ちるであろう。……こうした湊屋仁三郎一流の痛快な消息のドン底を把握し、神経衰弱の無限の乱麻を一刀両断しようと
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