――ム。棄てるなら……助けると思うて……酒屋の前へ棄ててくれい。昨夜《ゆうべ》の釣銭《つる》をば四円二十銭置いて行《い》てくれい』
『ウハッ……知っとったか。外道《げどう》サレ』
そんな事で向うの禅宗寺へ逃込みますと、有難いことにその和尚という奴が、博多の聖福寺《しょうふくじ》から出た奴で、私たちの友達ですケニなかなか人物が出来《でけ》ております。
『ワハハハ。それは芽出度《めでた》い。人間そこまで行《い》てみん事には、世の中はわからん。よろしい引受けた。その支那人なら私も知ってる。ウチの寺へ石塔を建てて、その細工賃を一年ばかり石屋へ引っかけて、拙僧《わし》に迷惑をかけとる奴じゃ。ええ気味《きび》じゃええ気味じゃ。文句附けに来たら私が出てネジて上げる。心配せずに一杯飲みない。オイ。了念了念。昨夜《ゆんべ》の般若湯《はんにゃとう》の残りがあろう。ソレソレ。それとあのギスケ煮(博多名産、小魚の煮干《にぼし》)の鑵を、ここへ持って来なさい』
というたような事でホッと一息しました。その寺で大惣に養生をさせまして、それから三人で平戸の塩鯨の取引を初めましたのが運の開け初めで、長崎を根拠《ねじ
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