ン州……大変事《おおごと》の出来たぞ』
『……芽出度《めでた》い……』
『殴《くら》わせるぞ畜生。芽出度過ぎて運の尽きとるじゃないか』
『ドウすれあ良《え》えかいな』
『仕様はない。逃げよう。支那人《チャンチャン》が来て五円戻せチュータてちゃ、あの五円札は酒屋から取戻されん。そんならチいうて大惣の病気をば今一度、非道《ひどう》なす訳には尚更行かん……よしよし……俺が一つ談判して来てやろう』
それから木賃宿のオヤジに談判しますと、宿賃は要らん。大病人に死なれちゃタマラン。早よう出てくれいと云います。
コッチは得たり賢しです。直ぐにヒョロヒョロの大惣をツン州の背中へ帯で十文字に結び付けて、外へ出ましたが、別段、どこへ行くという当ても御座いません。その中《うち》にフト稲佐の山奥へ、私の知っている禅宗坊主が居る事を思い出しまして、昨夜《ゆんべ》の鐘の音は、もしやソイツの寺じゃないか知らんと気が付きました。何ともハヤ心細い、タヨリにならぬ空頼みをアテにして、足に任せて行くうちに、何しろ十二月も三十日か三十一日という押詰まっての事で、ピューピュー風に吹かれた大病人上りの大惣が寒がります。哀れな
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