うめ》かんでもヨカ。御苦労御苦労。こちの方がヨッポド済まん。ところで済まん序《ついで》にチョット待っとれ。骨休めするケニ』
 私はその五円札を一枚持って飛出いて、近所の酒屋から土瓶に二杯、酒を買うて、木賃宿から味噌を一皿貰うて来ました。何しろ暫く飢渇《かわ》いておったところですから、骨休めというので、ツン公と二人で燗もせぬ酒をグビリグビリやっております、とその横で大惣がウンウン唸り出しました。又、私の袖を引きますので五月蠅《せから》しい奴と思うて振向きますと、大惣の奴、熱で黒くなった舌を甜《な》めずりまわしております。
『……オレ……モ……一パイ……ノム……』
『途方もない事をば云うな。馬鹿……その大病で酒を飲むチウ奴があるか。即死《しまえ》てしまうぞ』
 大惣の落ち凹《くぼ》んだ眼の色が変りました。涙をズウウと流しながら歯ぎしりをして半分起き上ろうとします。
『ソノ……サケハ……オレノ……キモノ……テツケジャ……。オレモ……ノム……ケンリ……ケンリガ……アル……』
 私は胸が一パイになりました。
『アハハハハ。これは謝罪《あやま》った。俺が悪かった悪かった。よしよし。わかったわかった
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