たら又一段と非凡離れがしている。つまるところは聖人以外の誰にでも出来る平々凡々振りであるが、その平々凡々振りが又なかなか容易に真似られないのだから不思議である。頭山翁の恐ろしさと偉大さは、その平々凡々なノンセンス振りの中に在ると云ってもいい位である。
嘗て頭山翁が持っていた、北海道の某炭坑が七十五万円で売れた事がある。
これを聞いた全日本の頭山翁の崇拝者連中、喜ぶまいことか、吾も吾もと押寄せて、当時霊南坂にあったかの頭山邸は夜も昼も押すな押すなの満員状態を呈した。下では幾流れとなく板を並べた上に食器を並べて、避難民式に雲集《うんしゅう》した書生や壮士が入代《いりかわ》り立代《たちかわ》り飯を喰うので毎日毎日戦争のような騒動である。また階上の翁の部屋では天下のインチキ名士連が翁を取巻いて借銭の後始末、寄附、運動費、記念碑建立、社会事業、満蒙問題なぞ、あらゆる鹿爪《しかつめ》らしい問題を提《ひっさ》げて、厚顔無恥に翁へ持ちかける。
翁はそんな連中に対して面会謝絶をしないのみか、どんな事を頼まれても否《いや》とは云わない。黙々として話を聞き終ると金《かね》ならば金、印形《いんぎょう》な
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