だというのにお酌みたいに初々しい内気な女であった。それにチョットわからないが、非道《ひど》い近眼だったこと……これが一番大事な話のヤマなんだが、その近眼で人の顔をジイッと見る眼付が又、何ともいえず人なつっこい。見られた人間は、ちょっと惚れられているような感じを受ける事……アハハ。馬鹿にしちゃいけねえ。俺が自惚《うぬぼ》れた訳じゃねえんだ。誰にもそう思われたんだよ。
それよりも事件発生以来、毎日毎日警視庁の無能を新聞に敲《たた》かれながら、ジイッと辛棒して、こうした余計な事をジリジリと調べてまわる俺達の苦労が並大抵じゃなかった事だけは同情しておいてもらいたいね。新聞記者なんてものは、そんなところにはミジンも同情しないからね。読者を喜ばせるのが商売だから、むしろ「警視庁の無能曝露」とか「犯人の大成功」とか書きたい気持で、まだですかまだですかと様子を聞きに来るんだからウンザリしちまわあ。イヤな商売だよ。全く……。
ところが又、生憎《あいにく》な事にこの事件が、だんだんと新聞の註文に嵌《は》まりそうになって来た。この筋を辿って行けばキット何かにブツカルに違いないという、俺一流のカンが当って
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