近眼芸妓と迷宮事件
夢野久作

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)材料《たね》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)煙草|容《いれ》もない。

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(例)[#ここから1字下げ]
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 俺の刑事生活中の面白い体験を話せって云うのか。小説の材料《たね》にするから……ふうん。折角《せっかく》だが面白い話なんかないよ。ヒネクレた事件のアトをコツコツと探りまわるんだから碌《ろく》な事はないんだ。何でも職務《しごと》となるとねえ。下らないイヤな思い出ばっかりだよ。
 その下らないイヤな思い出が結構。在来《ありきたり》の名探偵大成功式の話じゃシンミリしない。恐ろしく執念深いんだなあ。
 それじゃコンナのはどうだい。どうしても目星が附かないので警視庁のパリパリ連中が、みんな兜《かぶと》を脱いだ絶対の迷宮事件が一つ在るんだ。所謂《いわゆる》、完全犯罪だね。そいつが事件後丸一年目に或る芸妓《げいしゃ》のヒドイ近眼のお蔭で的確に足が付いた。すぐに犯人が捕まったってえ話はどうだい。珍らしいかね。実はこれは吾々にと
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