な……といった感じが、そんな取調《とりしらべ》の最中にピンと頭へ来たがね。
しかし何しろ九百何円の金がなくなっている以上、殺人強盗という見込みなんだから事が重大だ。しかも、よっぽど前から金兵衛の日常の癖や何かを研究して知っている人間で、相当の腕力と元気のある奴だ。殊に日が暮れているとはいえ人家や、電車道に近い薄明るい処で、これだけの思い切った仕事を遣《や》っ付《つ》けている以上、生やさしい度胸ではない。事によると前科者かも知れない……という理窟から遠い親戚や無尽講の関係者、又は九段下界隈の前科者や無頼漢《ごろつき》なぞを出来るだけ念入りに洗ってみたが、これとても疑わしい奴は一人も居ない。その中でも、二十五日の晩に、湯島天神の境内に集まっていた無尽講の世話人連中は、肝腎の帳面と金を持っている金兵衛が来ないので、その晩の九時頃になって、飯田町の金兵衛の家《うち》に電話をかけた。すると女房の声で、もう着く頃だという返事だったので、夜中過ぎる頃迄酒を飲みながら待っていたが、それでも来ない。そこでモウ一度電話をかけてみたが、今度は誰も起きて来ないらしいので、殺されているとは夢にも知らずに、明日
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