眠症に罹《かか》って、癈人みたようになってしまうのです。
 イヤ。それが普通のお茶とは違うのです。
 普通のお茶だったら僕なんかイクラ飲んだってビクともするんじゃありませんがね。あの留学生が持っている奴はソンナ生やさしいもんじゃありません。崑崙茶《こんろんちゃ》といって、一種特別のタンニンを含んだお茶から精製したエキスみたいなものなんです。ですからトテモ口先や筆の先では形容の出来ない、天下無敵のモノスゴイ魅力でもって、タッタ一度で飲んだ奴を中毒させてしまうんです。トッテモ恐ろしい、お茶の中のお茶といってもいい位な、お茶の中のナンバー・ワンなんです。
 その崑崙茶のエキスで作った白い粉末で「茶精」[#「茶精」は底本では「精茶」]っていう奴をあの留学生は、どこかに隠して持っているのです。どこに隠しているかわかりませんが……支那人の中には魔法使いみたような奴が多いのですからね。……そいつを僕の枕元の鎮静剤《ちんせいざい》の中に、すこし宛《ずつ》粘《ひね》り込んでいるんです。そうして誰にもわからないように、僕の生命《いのち》を取ろうとしているのです……僕は時々頭から蒲団《ふとん》を冠《かぶ》る
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