癖《くせ》がありますからね。その隙《すき》に入れるんだろうと思うんですが……僕が頂いている鎮静剤はステキに苦いでしょう。おまけにプンと臭《にお》いがするでしょう。ですから「茶精」が仕込んで在るのが解らないんです。
エッ……そんな悪戯《いたずら》をする理由ですか。
それあ解り切っているじゃありませんか。貴女はまだ不眠症にかかった事が無いんですね。そうでしょう。……いつもかも、睡《ね》むくて困る……アハハ……だから不眠症患者の気持がわからないのですよ。
……こうなんです。アイツは僕が先生の注射のお蔭でグーグー眠っているのを見ると、妙に苛立《いらだ》たしくなって、癪《しゃく》に障《さわ》って来るのです。そうして終《しま》いには殺してしまいたいくらい憎らしくなって来るんです。
イイヤ。そうなんです。これが不眠症患者の特徴なんです。つまり極端なエゴイストになってしまうんですね。いくら眠ろう眠ろうと思っても、思えば思うほど眠れない事がわかって来ると、だんだん気違いみたいな気持になって来るんですよ。……世界中の人間が一人残らず不眠症にかかって、ウンウン藻掻《もが》いている真中《まんなか》で、
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