抱して待っていないと、叔父さんが又ドンナ悪企みをして、お前の生命《いのち》を取りに来るか解らない。しかしこの鉄筋コンクリートの室《へや》に隠れていれば、誰も近づく事は出来ないからってネ……そう云って下すったから、妾スッカリ安心して、ここに隠れているのよ。そのうちに青ネクタイ氏が、キット会いに来て下さると思ってネ……楽しみにして待っていたのよ……。
 そうしたら可笑《おか》しいの……まあ聞いて頂戴《ちょうだい》……この頃ヤット気が付いたの……。
 ここの院長さんこそ名探偵の青ネクタイ氏なのよ。……ホラ御覧なさい。誰だってビックリするにきまっているわ。妾だってオンナジ事よ。あんなに頭が禿《はげ》ていらっしゃるのでチットも気が付かなかったのよ。
 でもこの頃、窓の前をお通りになるたんびに青いネクタイを締めていらっしゃるでしょう。新しい……派手なダンダラ縞《じま》の……ネ。ですからもしやそうじゃないかと思って気を付けていたらヤットわかったのよ。
 妾、感謝しちゃったわ。あんなにまで苦心して、妾を保護して下さるんですもの……。
 何故ってあの禿頭《はげあたま》は変装なのよ。仮髪《かつら》なのよ。
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