はどうしても敵《かな》わなかったの……だって撃剣の上手なお巡査《まわり》さんなんか呼んで来て加勢させるんですもの。妾、お床の間の前に追い詰められながら、一生懸命に刀を振りまわして闘ってみたけど、トウトウ刀をタタキ落されちゃったの。おまけに叔父さんの死骸《しがい》に引っかかってドタンと尻餅を突いたお蔭で逃げ損って、そのお巡査《まわり》さんに押え付けられてしまったのよ。デモ面白かったわ。ホホホホホホ……。
それから自動車でこの病院に連れて来られると、ここの院長さんが思いがけない親切な方で、トテモトテモ頭のいい方だったのよ。お美味《いし》い冷水《おひや》を何杯も何杯も御馳走《ごちそう》して下すった上に、妾の話をスッカリ聞いて下すって、色んな事を云って聞かせて下すったのよ。……モウ暫くの間キチガイになった振りをして、この病院に這入っていた方がいいってネ……そう仰言《おっしゃ》るの……お前の叔父さんはまだ生きていて、青ネクタイ氏と裁判所で争うって云っているのだから、その叔父さんの罪状が決定して、監獄に入られるようになったら、その時に病院から出してやる。青ネクタイ氏とも結婚させてやる。それまで辛
前へ
次へ
全30ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング