ってジイッとしていたの。随分苦しかったわ……でも叔父は用心深いんですからね。雨戸を閉めちゃったら、もうトテモ這入《はい》れないのよ。そのうちに、やっとの思いで夜が更《ふ》けて来て、お台所の時計が十二時を打つのをチャンと数えてから、ソーッと押入を出て行って、叔父の蒲団《ふとん》の下に隠して在った白鞘《しらさや》の刀を、中味だけソーッと引き抜いてしまったの……叔父はいつもそうして寝ていたんですからね。そうして素《す》ッ裸体《ぱだか》のままお酒を飲んで寝ている憎らしい叔父の顔をメチャメチャに斬ってやったの……お母さんの讐敵《かたき》……って云ってね。
 ……それあ怖かったわ。血みどろになった素《す》ッ裸体《ぱだか》の叔父が、死物狂いになって掴みかかって来るんですもの。それをあっちに逃げたり、こっちに外《そら》したりしながらヤットの思いで斬り倒してやったわ。
 それから大勢の雇人《やといにん》が出て来て、妾の事をキチガイだキチガイだって、ワイワイ騒ぎ出したの。妾口惜しかったから思い切って暴れてやったわ。大きな男が色んな物を持って向って来るのを、何人も何人も斬ったり突いたりしてやったけど、大勢に
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