悪いとも物凄いとも形容が出来ないそうです。
 ところが、おしまいにはその眼の光りもドンヨリと消え失せてしまって、何の事はないキョトンとした空《から》っぽの人形みたいな心理状態になる。身動きなんか無論出来ないのですから、お茶は介抱人に飲ましてもらう。その時のお茶の味が又、特別においしいのだそうで、身体《からだ》中がお茶の芳香に包まれてしまったようなウットリとした気持になるのだそうですが、やはり神経が弱り切っているせいでしょうね。その代りに糞《くそ》も小便も垂れ流しで、ことに心神|消耗《しょうもう》の極、遺精を初める奴が十人が十人だそうですが、そんなものは皆、茶博士たちが始末して遣るのだそうで、実に行届いたものだそうです。
 こうして二三週間も経つうちに、最初は麓《ふもと》の近くに在った新茶の芽が、だんだんと崑崙山脈の高い高い地域に移動して行きます。それに連れて採取が困難になって来る訳で、やがて新茶が全く採れなくなったとなると、茶摘男と茶博士が一緒になって、その生きた死骸みたいに弱り切っている富豪貴人たちを、それぞれに馬車の中へ担《かつ》ぎ込んで、牛酪《ぎゅうらく》や、骨羹《こっかん》なぞ
前へ 次へ
全30ページ中24ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング