いう上等の滋養分を与えながら、来がけよりも一層ユックリユックリした速度で、故郷へ連れて帰るのです。つまり日中を避《よ》けて、朝の間《ま》と夕方だけ馬を歩かせるので、あんまり速く馬を歩かせたり、モウ夏になりかけている日光に当てたり何《なん》かすると、眼をまわしてヘタバル奴が出来かねないからだそうです。
ところで、コンナ風にしてヤットの思いで、七八箇月ぶりに故郷に帰り着いても、まだ半死の重病人みたいになっている奴が居るそうですが、しかしどっちにしてもこの崑崙茶の味を占めた奴はモウ助からないそうです。完全なお茶の中毒患者になっているんですから、来年の正月過ぎになると、今一度飲みに行きたくて堪《た》まらなくなる……尤《もっと》もこれは無理もない話でしょう。支那人一流の毒々しいエロと、バクチと、酒池肉林式の正月気分に、ウンという程|飽満《ほうまん》したアトの富豪連ですから、そうした脱俗的なピクニック気分を起すのは、生理上むしろ当然の要求かも知れませんからね。
そこで又行く。その次の年も行く。度重なるに連れて、お茶仲間からは羨《うらや》ましがられるばかりでなく、お茶の勲爵士《ナイト》としての無
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