惑《みわく》のエースと認められている事だし、お出入りのお茶屋が又チャンチャン一流の形容詞沢山で……崑崙茶の味を知らなければ共にお茶を談ずるに足らず……とか何とか云って、口を極《きわ》めて誘惑《ゆうわく》するんですから、下地のある連中はトテモたまりません。それでは一つ……といったような訳で、思い切り莫大なお金をお茶屋に渡して、周旋を頼むことになるのです。
 ところで崑崙茶を飲みに行く連中が、雲南、貴州、四川の各地方の都会に勢揃いをして出かけるのは、大抵正月過ぎから二月頃までの間だそうです。つまり崑崙山脈までの距離の遠し近しによって、出発の早し遅しが決まるのだそうですが、その行列というのが又スバラシイ観物《みもの》だそうです。
 真先《まっさき》に黄色い旗を捧げた道案内者が、二人か三人馬に乗って行くと、その後から二三匹|宛《ずつ》、馬の背中に結び付けられた猿が合計二三十匹、乃至《ないし》、四五十匹ぐらい行くのです。その間間《あいだあいだ》に緑色の半纏《はんてん》を着た茶摘《ちゃつみ》男とか、黄袍《おうほう》を纏《まと》うた茶博士《ちゃはかせ》とかいったような者が、二三十人|入《い》り交《ま
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