じ》って行くのですが、この猿が何の役に立つかは後で解ります。それから些《すく》なくて三四台、多くて七八台から十台位の、美事に飾り立てた二頭立の馬車が行くので、その中に崑崙を飲みに行く富豪だの貴人だのが、めいめいに自慢の茶器を抱えて乗っている訳ですが、この時に限って支那富豪に附き物のお妾《めかけ》さんは、一人も行列の中に加わっておりません。全く男ばかりの行列なんだそうですが、その理由も追々《おいおい》とわかって来るでしょう。
 その後から金銀細工の鳳凰《ほうおう》や、蝶々なんぞの飾りを付けた二つの梅漬《うめづけ》の甕《かめ》を先に立てて、小行李とか、大行李とかいった式の食料品や天幕《テント》なんぞを積んだ車が行く。その後から武器を持った馬賊みたような警固人が、堂々と騎馬隊を作って行くので、知らない者が見ると戦争だかお茶飲みだかチョット見当が付かない。ちょうど阿剌比亜《アラビヤ》の沙漠を渡る隊商ですね。とにかくソンナ大騒ぎをやって、新茶を飲みに行こうというんですから、支那人の享楽気分というものが、ドレ位徹底しているものだか、殆《ほと》んど底が知れないでしょう。
 彼等はそれから嶮岨《けんそ
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