て下さい。
貴女は四川《しせん》省附近に、お茶で身代《しんだい》を無くした人間が多い事を御存じじゃ無いですか。ヘエ。それも御存じ無い。アノ附近に限られているのですからかなり有名な事実なんですが……。
エエ、そうです。随分珍妙な話なんです。酒や女で身代限りをするのなら当り前ですが、お茶の道楽で身体《からだ》を持ち崩して、破産するというのですから、馬鹿馬鹿しいのを通り越しているでしょう。トテモ支那でなくちゃ聞かれない話なんです。
御存じの通り支那人という奴は……聞えやしないでしょうね……チャンチャンという奴は、国家とか、社会とかいう観念となると全然無いと云っていい位に、個人主義的な動物ですが、その代りに私的の生活に関する、享楽《きょうらく》手段の発達している事といったら、世界一と断言していいでしょう。着物でも、住居《すまい》でも、料理でも、酒でも、香料でも……ね……御存じでしょう……エロの方面でも何でも、個人的な享楽機関と来たら、四千年の歴史を背景《バック》にしているだけに、スバラシイ尖端《せんたん》的なところまで発達を遂げているんです。
……ですからタッタ一つのお茶といったような
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