ような美しいお嬢さんがこちらの方を見て手招きをしております。
 リイは急に行って見たくなりましたから、又教わった通り呼吸を詰めて、
「マム」
 と言って見ました。
 リイが遠眼鏡をのぞいて、「マム」と魔法の言葉を使いますと、向うに見えている月の世界のけしきがだんだん近寄って来ました。
 宝石の身体《からだ》に金銀の羽根を持った鳥や虫、または何とも云いようのない程美事な月の御殿の中の有《あ》り様《さま》や、そこに大勢の獣《けもの》や鳥を連れて迎えに出て来た美しいお姫様の姿なぞが、ズンズン眼の前に近づいて来ました。
 変だと思って遠眼鏡を眼から離しますと、これはどうでしょう。
 リイはいつの間にか月の世界の真白な砂の上に立っておりまして、今までいた人間の世界は、向うに見える水晶の山の上にお盆のようにちいさくなって、紫色に美しく光っています。
 あんまり不思議なことばかり続くので、リイは肝を潰して立っていますと、そこへ最前の美しいお姫様が来まして、
「まあリイさま、よく入らっしゃいました。最前からお待ちしておりました。私はこの月の世界の主人で月姫というもので御座います。どうぞゆっくり遊んで行
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