這入ってそのまま消え失せてしまいました。
リイはビックリして立っておりましたが、やっと気がついて見ると、自分の手には一本の黒い棒をしっかりと握っております。
リイはいよいよ不思議に思いました。急いでその棒をお婆さんに返そうと思って、たった今お婆さんが消えて行った暗いところへ行きますと、そこは平《ひら》たい壁ばかりで、お婆さんはどこへ行ったかわかりませんでした。
リイはどうしようかと思いましたが、それと一所に今のお婆さんが云ったことを思い出しまして、ためしに黒い棒を片っ方の眼に当てて、向うの山の上のお月様をのぞいて、教わった通り、
「アム」
と云って見ました。
リイはあんまり不思議なのに驚いて、棒を取り落そうとした位でした。
お月様の世界がリイの眼の前に見えたのです。
見渡す限り真白い雪のような土の上に、水晶のように透きとおった山や翡翠《ひすい》のようにキレイな海や川がありまして、銀の草や木が生《は》え、黄金の実が生《な》って、その美しさは眼も眩《くら》むほどです。その中に高い高い大きな大きな金剛石の御殿が建っていて、その中にあのお伽噺《とぎばなし》の中にある竜宮の乙姫様の
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