立って、涙をポロポロこぼしながら東の方を見ていますと、向うの草山の方が明るくなって、黄色い大きなお月様がのぼって来ました。
リイはこんな大きなお月様を見たのは生れて初めてでしたから、ビックリして泣きやんで見ておりますと、不意にうしろの方からシャガレた声で、
「リイやリイや」
と云う声がしました。
リイはお月様を見ているところに不意にうしろから名前を呼ばれましたので、ビックリしてふり向きますと、そこには黒い三角の長い頭巾を冠《かぶ》り、同じように三角の長い外套《がいとう》を着た、顔色の青い、眼の玉の赤い、白髪のお婆さんが立っておりました。
そのお婆さんはニコニコ笑いながら、外套の下から小さな黒い棒を出してリイに渡しました。そうしてリイの耳にシャガレた低い声でこういいました。
「リイ、リイ、リイ
片目のリイ
この眼がね、眼にあてて
息つめて、アムと云え
すきなとこ、見られるぞ
リイ、リイ、リイ
片目のリイ
このめがね、眼に当てて
すきなとこ、のぞいたら
息つめて、マムと云え
どこへでも、ゆかれるぞ
アム、マム、ムニャムニャ」
と云うかと思うと、暗い家の蔭に
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