ともリイが逃げはしまいかと心配していましたが、間もなく東の方からまん丸いお月様がのぼって来ましたので、その月の光りでやっとわかった山道をズンズン登って山の絶頂に来ますと、そこにある高い岩の上に不思議にも昔のままの子供の姿のリイが刀と鉄砲を持って立っておりました。
 兄さんのアア王と弟のサア王はこれを見ると、
「それ、あいつを弓で射ち殺せ」
「刀でたたき殺せ」
 と云いましたので、両方の兵隊は一時に岩の下へ突貫して来ました。
 リイは攻め寄せる兵隊を見てニコニコ笑いました。右手に刀、左手に鉄砲をさし上げて、
「みんな音なしくしろ。音なしくしないとこの鉄砲と刀とで一人も残らず殺してしまうぞ」
 と云いました。
 これを見ると、今までワイワイと勢《いきおい》よく攻めのぼって来た兵隊は、皆一時にドンドン逃げ出してしまって、あとにはただ二人のお兄さん、アア王とサア王とだけが残りました。
 リイは二人の兄さんに向って岩の上からこう云いました。
「お二人のお兄さま、おききなさい。あなたがたはなぜそんなに喧嘩をなさるのですか」
 二人のお兄さんはこれをきくと恥かしくなって、岩の下で顔を見合わせて真赤に
前へ 次へ
全16ページ中13ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング