て来い」
「あの宝の刀を持って来い」
 と云いつけました。
 両方の家来は宝庫《たからぐら》の中の宝の箱を開いて見ますと、どちらも宝物が無くなっていますので、肝を潰して、
「お宝物の鉄砲が無くなっております」
「お宝物の刀が無くなっております」
 と青くなって両方の王様に言いました。
 両方の王様も青くなってしまいました。それは大変と、てんでに宝庫に駈け付けて調べて見ますと、番兵も庫《くら》の鍵もチャンとしていながら、中の刀と鉄砲だけ無くなっています。そうしてもとの鉄砲と刀とあったところに、どちらにも、
「お宝物はリイがいただいてまいりました。リイは国の境目《さかいめ》の高い山の上にお待ちしております」
 と書いた紙片が置いてありました。
 両方の兄さんたちは憤《おこ》るまいことか、
「さては弟のリイは泥棒の名人になったと見える。あの高い山を取り巻いて、リイを引っ捕えて宝物を取りもどせ」
 と云うので、両方の国の兵隊が両方からその山をぐるりと取り巻いて、ズンズン攻めのぼって来ました。
 ところがその山の絶頂まで攻めのぼって来るうちにすっかり日が暮れてしまいましたので、二人の兄さんは両方
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