中へ半身を斜めに埋めたまま、あたりの真白な、荘厳を極めた樹氷を見まわした。そうして心の底から死の戦慄を感じながら、半泣きになって叫んでみた。
「おおおおお――いいい」
「…………オオオ…………」
それは谷々の反響であったか、人間の返答であったかわからない、遠い微かな声であった。私は又叫んだ。
「おおおおお――いいいイ」
「オオオ――イイイ」
たしかに人間の声であった。……ヤレ助かった……と思うトタンに私の頭の中で、思い付いたままペンを投出して書きかけにして来た原稿の文字が幾行も幾行も並んで辷って行った。
私は、それからドンナに叫び立てながら、ドンナに苦しみ※[#「足へん+宛」、第3水準1−92−36]《もが》いて雪の道を掻き分けて行ったか記憶しない。やがて向うから最前の猟師の吉兵衛を先に立てた四人の一行が、引返して来るのに出会った時、黒い眼鏡も何もどこかへ落してしまった私は、グッタリとなって雪の中へ突伏した。
「ウワア、これあマア先生、カンジキも穿かねえで、どうしてここまで御座った」
「あぶねえことだった。こんなことをさっしゃる位なら、私たちが一所《いっしょ》にお供して来るところ
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