眼を開く
夢野久作
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)岨道《そばみち》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)丸|一《ひ》と冬を
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「足へん+宛」、第3水準1−92−36]
−−
私は若い時分に、創作に専心したいために或る山奥の空家に引込んで、自炊生活をやったことがある。そうしてその時に、人間というものの極く僅かばかりの不注意とか、手遅れとかいうものが、如何に深刻な悲劇を構成するものであるかということをシミジミ思い知らせられる出来事にぶつかったものである。
つまり私は、そうした隠遁生活をして、浮世離れた創作に熱中していたために、法律にかからない一つの殺人罪を犯したのであった。そうして私の良心の片隅に、生涯忘れることの出来ない深い疵《きず》を残したのであった。
その私が隠遁生活をしていた場所というのは、山の麓の村落から谿谷の間の岨道《そばみち》を、一里ばかり上った処に在る或る富豪の別荘で、荒れ果
次へ
全22ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング