中禿《ちゅうはげ》の頭を撫で上げながら、自慢の長い鬚《ひげ》を自烈度《じれった》そうにヒネリ上げヒネリ下《さげ》した。
「フム。それで……自殺の原因は……」
「ハイ。それがで御座います……ソノ……」
巡査部長は困惑したらしく額の汗を拭いた。
「……わかりませんので……その……僅かの隙に致しました事で……全くその……私どもが狼狽致しましたので……縄を解けば白状すると申しましたので……その……」
「ウムウム。それは聞いちょる。……問題は自殺の原因じゃ。復讐を遂げると直ぐに自殺しよった原因じゃ」
「……………………」
「死に際に何も云わんじゃったか。巡査どもは何も聞かんと云いよったが」
「私は聞きました。皆の衆。すみません……と……」
「皆の衆……その皆の衆というのは山窩の連中に云うた言《こと》じゃろう……表の群集の中に怪しい者は居らんじゃったか。様子を見届けに来たような者は……」
「ハッ。それは居らなかった筈……と雁八が申しました。お花という女は、まだ生娘《きむすめ》では御座いましたが、ナカナカのシッカリ者で、わたし一人でキット親の仇《かたき》を討って見せるけに一人も加勢に来る事はならん
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