た医者は誰じゃったな」
「ハイ。この間坑夫と喧嘩して殺されました新入《しんにゅう》の炭坑医で」
「ウハッ。あの若い医師《いしゃ》か……」
「ハイ。狃染《なじみ》の芸者が風邪を引いているのを過って盛り殺した奴で……」
「……そうかそうか……あの医者にかかっちゃ堪まらん……フムフム。それからドウなった」
「それと知りました藤六の乾児《こぶん》どもが、皆この直方に集まって来て評議をしました。それが、あの乞食の赤潮で……それから皆で手分けをして、本四国を巡礼しておりました藤六の娘のお花を探し出して、相手が実の兄である事を秘《かく》いて、仇討をさせようとした……それを銀次が感付いて、裏を掻いて逃げようとしたのが今度の騒動の原因であったと雁八が申しますので……話の模様を考え合わせてみますと、どうやら雁八が黒幕らしう御座いますが……」
「ウムウム。ようよう経緯《すじみち》が、わかったようじゃ。彼奴等《あいつども》は復讐心が強いでのう」
「道徳観念が普通人と全く違いますようで……」
「……それもある……が……しかし……」
と云ううちに署長は何やら考え込んだ。いつもの癖で、椅子の中に深く身を沈めると、
前へ
次へ
全33ページ中30ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング