と云うておりましたそうで……又、誰か仲間が見ておりますれば、警察まで担《かつ》がれて参りまする中《うち》に、途中でお花を助け出します筈……」
「ウムウム。それは理屈じゃが……しかしお花は、丹波小僧が実の兄という事を、どうかして察しておりはせんじゃったかな」
「イヤ。そんな模様には見受けませんでした。御承知の通りツイ夜明け方の一時間ばかりの間の出来事で御座いますけに……丹波小僧が何もかも先手を打って物を云う間もなく猿轡を噛まして、担いで来たと申しておりましたが……実地検査の結果もその通りのようで……」
「フーム」と署長は考え込んだ。
「彼奴《あやつ》どものする事は一から十までサッパリわからん。切支丹と似たり寄ったりじゃ」
「……………」
「ウム。まあ良《え》え。それ位のところで調書を作ってくれい。自殺の原因は発狂とでもしておけ。警察の中で人を殺したのじゃからナ……ハッハッ……」
それから署長は椅子の中で伸び伸びと大|欠伸《あくび》をした。両手を高々と天井に突き伸ばして顔を真赤にした。
「アア……アア……ッと……厄介な奴どもじゃ――」
底本:「夢野久作全集4」ちくま文庫、筑摩書房
前へ
次へ
全33ページ中32ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング