……それを知っておったのは藤六だけで、本人は知らんじゃった筈と雁八は云うておりましたが……藤六はそんな風にして方々に児《こ》を生み棄てて来た男だそうで……」
「おかしいのう。それでも……」
「もうすこしお話しがあります」
「話いてみい」
「……ところが、それから後《のち》、藤六はその丹波小僧と雁八を一本立にして手離しましたアト、だんだん年を老《と》って仏心が附いたので御座いましょう。今一人居ります娘が、九州で巡礼乞食に化けて、女白浪《おんなしらなみ》を稼いでいるのに会いたさに、自分の縄張を鬼城《おにがじょう》の親分に譲って、石見の山の中から出て来て、この直方まで来て、落付いておりましたものらしく、集まって来た乞食共の中には、藤六の跡を慕うて来た奴どもが相当居ったものらしう御座います。……と申しますのは、つまり藤六が悪魔様に上げている黒穂《くろんぼ》を頂くと、自分の前科が決してバレぬ。一生安楽に暮される守護符《おまもり》になる……というので……もっとも雁八はその貰うた黒穂《くろんぼ》を白湯《さゆ》で飲んだと申しましたが……ハハハ……」
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署長は感慨深そうに腕を組んで
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