一つも御座いませんので困りました。署員の意見を尋ねてみましても、ただこの事件と例の乞食の赤潮との間に、何か関係がありはせぬかという位の、まことにタヨリない意見で、事件の真相の報告書の書きようが御座いませぬ。そこで、ほかに手蔓《てづる》らしい手蔓は無いと思いましたけに、雲を掴むようなお話では御座いましたが、御留守中独断で福岡へ出張致しまして、只今の鍋墨雁八の口を※[#「てへん+劣」、第3水準1−84−77]《むし》りに参りました訳で御座いましたが、その時に私は思い切って、お花が死にました時の模様を詳しく雁八に話して聞かせますと、それならばと申しまして雁八が、残らず真相《どろ》を吐きました。涙をボロボロ流しておったようで御座いますが……つまり今度、巡礼お花に殺されました丹波小僧と、鍋墨の雁八とは、ズット以前に石見の山奥で、藤六の盃を貰うた兄弟分で御座いましたそうで……しかも雁八が聞いた噂によりますと、丹波小僧というのは藤六の甥どころではない。藤六が天の橋立の酌婦に生ませた実の子らしいという話で……」
「……ううむ。おかしいのう。それでは……何が何やらわからんようになるがのう」
「それがその
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