を上げる者が絶えませぬそうで……どこから持って来るか、わかりませぬが……」
「成る程のう。その理屈もわかるようじゃ。校長の話を聞いてみるとのう」
「私はそのようなお話を存じませぬものですけに、いよいよ不思議に思うておりまするところへ今度の事件で御座います」
「ウムウム」
「この辺の者は麦の黒穂《くろんぼ》の事を外道花《げどうばな》と申しておりますので、藤六の墓に黒穂《くろんぼ》が上がるのは不思議じゃ。何か悪い事の起る前兆《しらせ》ではないか……というこの界隈の者の話をチラと聞いたり致しましたので、イヨイヨ奇怪に存じておりまするところへ一個月ばかり前の事で御座います。有名な窃盗犯で鍋墨《なべずみ》の雁八という……」
「ウムウム。福岡から追込まれて来て新入坑の坑夫に紛れ込んでおったのを、君が発見して引渡したという、あれじゃろ……」
「ハイ。彼奴《あいつ》が須崎の独房で、毎月十一日に腥物《なまぐさ》を喰いよらんチウ事を、小耳に挟んでおりましたけに……十一日は藤六の命日で御座いますけに……」
「成る程……カンがええのう」
「それがで御座います。何をいうにも二人とも死んでおりますために手がかりが
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