。可愛相だが悪魔《デベル》様の犠牲だ。ヘヘ。待っていたぞ畜生……うまく行けあ俺の信心は満点だ。大阪の金持以上の根性になれる。ヘヘ……義理も人情も、神も仏も踏殺して行けるんだ。怖いものなしになれるんだ。ヘヘ。立身出世自由自在だ。ヘヘ。待っていたぞ畜生……」
 そんな独言《ひとりごと》を云っているうちにタッタ一人で真青に昂奮したらしい銀次は、緊張した態度でセカセカと身支度を初めた。
 最初に此家《ここ》へ来た時の通りの手甲脚絆《てこうきゃはん》に身を固めて、角帯をキリリと締め直すと、押入の前にキチンと坐った。藤六が居た時のままになっている粗末な仏壇の前に坐って、赤い金襴《きんらん》の帷帳《とばり》の中から覗いている茶褐色の頭蓋骨を仰ぎながら、何かしら訳のわからぬ事をブツブツと唱え初めた。それから自分の頭の毛を両手でゴシゴシと掻きまわして礼拝し、礼拝しては掻きまわして四度ばかり繰り返すうちに、やがて猿のような卑しい冷笑を、顔一面に浮べながらスックリと立上ると、押入の反対側の隅の小箪笥から、もう一度、黄木綿の袋を引出して、かなりの額《たか》の円札や銀銅貨を叮嚀に数えて胴巻に入れた。同じ曳出《ひ
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